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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「できるだけお荷物にならねえようにするから」と云ってさぶは頭をさげた、「よろしく頼むよ、栄ちゃん」

ばかなことを云うな、と叱りつけようとしたが、栄二は自分を制して云った、「――お互いさまだ、おれもよろしく頼むぜ」

「ようやくここまできた」さぶは酒を啜って云った、「そのうちに二人で店を持とうって、いつか栄ちゃんに云われてから、おら夢にまでみたけれども、それが本当のことになろうとは思わなかった、おらあいま嬉しいような、おっかねえような心持だよ」

「おれだって同じこった、世の中はあまくあねえ、せっかくこうして店を持っても、うまくやってゆけるかどうかはわからねえからな、考えてみればおれだっておっかなくなるぜ」

さぶは怯えでもしたように、眼をみはって栄二を見た。

「そんなことがあるもんか」さぶはむきになって云い返した、「栄ちゃんだけの腕があれば、どこへ出たって押しも押されもしやしねえ、そんな弱気なことを云うなんて、てんで栄ちゃんらしくもねえや」

「そう思ってくれるのはおめえだけだ」と栄二はまじめに云った、「おれはあしかけ三年も仕事をしなかった、以前のような腕にいつ戻れるか、正直に云って自分でも見当がつかない、ただ、――いまのおれにとっては、おめえが側にいてくれるというだけが大きな頼みだ、これだけは忘れないでくれな、さぶ」