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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「人をなめるな」と松田はどなった、「きさまたちくそ野郎どもに、おれがどんな気持でいるかわかるもんか」

彼の顔は赤黒くなった。それは例の悪罵の始まる前兆なのだが、そのときは逆に、眼を伏せて口をつぐみ、いかにも自分をもてあましたというふうに、せかせかと酒を飲み続けた。――寄場には刻限がある、今日は特別に許しを受けて来たというが、七時になったと聞くと与平が「おひらきにしよう」と云って盃を伏せた。栄二は与平に話すことがあった。寄場を出てここへ来てくれ、親子としていっしょにくらそうと、――けれども栄二は云いださなかった。それはこっちから寄場へいって、二人だけで話すことだ、と思ったからである。やがて四人が立ちあがり、平蔵も立ちあがった。平蔵が立ちあがったとき、みんなは吃驚したように彼を見た。平蔵がそれまでそこにいたということを、みんながすっかり忘れてしまったほど、彼は口もきかず笑いもしなかったのである。

栄二とおすえとさぶとで、みんなを表通りまで見送った。

「仕合せにやってくれよ、なあ」別れるときに松田が云った、「おかみさんはおすえさんとかいったな、もしこの野郎が不実なことでもしやあがったら、いいからすぐさまおれんとこへ捻じ込んで来てくれ、いいな、そうすればおれがすぐさま野郎に性をつけてやるから」