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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

怒りがこみあげてきた。馬方にどなられたことより、あるきながら馬とぶっつかりそうになるほど、思いあぐねていた自分に肚が立ったのだ。

「こんな筈じゃあなかった」と栄二はわれ知らず声に出して云った、「おい栄公、きさまこんな筈じゃなかったぞ、女の腐ったのみたようにうじうじして、溜息なんかばかりついていてどうしたんだ、昔の栄公はどこへいっちまったんだ」

そのときうしろから呼びかけられた。

「栄さんじゃありませんか、どこへいらっしゃるの」

彼が振り返ると、二十四、五になる女が、なにか包みを抱え、頬笑みながら近よって来た。どこかで見た顔だが、思いだせなかった。

「どうも暫く」女はおじぎをしてから云った、「あれからもずっと御繁昌ですか」

「申し訳ないが、どこの人だっけ」

「あらいやだ、お忘れになったの」と女は色っぽくにらんだ、「すみよしにいたかめ、おかめですよ」

十五の三

栄二は「すみよし」で飲んでいた。いつもの小座敷ではなく、土間の腰掛で。前には焼いた干物と甘煮が置いてあり、差向いにおのぶが腰を掛け、酌をしてやっていた。

「それでかめちゃん、いまどうしてるの」

「聞かなかったが」