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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
それにしても、世間にたてられ、うやまわれていく者には、陰にみなさぶのような人間が付いている、というおのぶの言葉は痛かった。
お松が火のはいった行燈を持って来、燗徳利を二本持って来た。
「わかってくれたのね」おのぶは新しい徳利から手酌で一つ飲んだ、「――わかってくれたような眼になったわ」
おのぶはそう云って栄二の顔を見つめ、急にその目から涙をこぼした。
「どうしてあたしをおかみさんにしてくれなかったの」おのぶは涙のあふれ出るままの眼で栄二をみつめながら云った、「あたしがこんなにあんたが好きなのに、あたしならきっといいおかみさんになってみせたのに、賃仕事どころか、あんたのためならあたしは、よろこんで身売りだってしたのに」
「浅黄幕が落ちて、口上から世話場があいたというところだな」栄二はなにも聞かなかったような口ぶりで云った、「――うちで心配しているといけないから帰る、ありがとうよ」
「まだいや、帰っちゃあ」と云っておのぶは栄二の手をすばやく握った、「一生のお願い、もう少しここにいてちょうだい」
栄二はふところへしまった金包みを出してみせた、「これを忘れちゃあいないだろうな」