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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「わかりました」とおすえは頷いた。

「この五両だが」と栄二は包みを開いて金を出した、「江ノ島までの往き帰りを駕籠にするから、二枚はおれが持っていく、一両でも余ると思うが、いそぐ旅だから用心のためだ、あとの三枚はさぶに渡して、大和屋へ内金に入れとくように云ってくれ、――って云うのはつまり、済まないがこの金は、おまえの手には一文もやれないんだ」

「見せましょうか」にっと笑って立ちあがったおすえは、箪笥の小物入れから財布を出して来、中のものを膝の上へ振り落した、「――かぞえてちょうだい、二分一朱とちょっとあります、あたしのことは大丈夫よ」

栄二はおすえの膝の上をじっと見ていて、それから肩の荷でもおろしたように、躯の力をぬきながら長い溜息をついた。

「まだ寝るには早いな」栄二は喉になにかつかえたような声で云った、「――刷毛でもしらべておこうか」

十六の一

旅立っていった栄二は、三日めの夕方に帰って来た。いかにも飛脚旅をしたあとのようで、それとわかるほど疲れがみえていたけれども、気持は張りきっているらしく、旅装を解きながらも活溌に話しやまなかった。

「おすえ、おめえもいっしょにいくんだ」