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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「栄ちゃん」とさぶが云った。

「構うなよ」と栄二が云った、「それよりもいま、おれの云ったことを」

男の一人が進み出て、さぶの着物の衿を掴んだ。それを待っていたように、栄二が立ちあがって振り返り、うしろにいる男の一人にとびかかった。そして右足の膝で、相手の下腹を烈しく突きあげ、その男がうっと声をあげて跼むのを見向きもせずに、次の男に躰当りをくれ、地面へ倒れるところを馬乗りになると、左手で首を絞めつけながら、右手の指二本をその男の両方の瞼の上へ当てた。

「眼を突きやぶるぞ」と栄二は叫んだ、「そっちにいる二人もよく見ろ、じたばたするとこいつの眼を二つとも突きやぶるぞ」

栄二に組み伏せられた男は動かなくなった。下腹を蹴あげられたやつは跼んだまま、まだ呻いていたし、さぶに掴みかかった男は、吃驚して棒立ちになった。縞の着物に角帯だから、お店者とあまくみたのであろう。それが予想外にすばしこく、しかも喧嘩馴れのした動作なのであっけにとられたらしい。さぶからはなれて棒立ちになった男は、大きく口をあいて、意味もなく右手を振った。

「おい、よせよあんちゃん、冗談だ」とその男は云った、「おれたちはただ、その、話をつけたかっただけなんだ」