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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
「だから読むのはよせって云うんだ、いつまでも子供っぽいやつだな」栄二は殆んどうわのそらで云った、「せわをやかせるなよ」
さぶは反故紙をそっと下に置いた。
二人はいま二十三になって、初めて二人だけで、綿文へ襖の張替えに来ていた。客座敷二つの襖八枚。その日は五日めで、下張りにかかったところであった。朱の塗縁に吉野杉の骨の、がっしりした本間襖で、刷毛を持って向いあうだけでも気持がひきしまり、いかにも「仕事をする」という、こころよい昂奮が全身に感じられるようであった。
中働きのおすえが来て、そっと覗き、お茶にしてもいいかときいた。さぶが栄二の顔を見、栄二が答えようとしたとき、綿文の妹娘のおそのが走って来て、おすえを押しのけるように座敷へはいり、栄二の脇へ坐った。
「あたしいまお稽古していたのよ」とおそのは栄二の膝へ手をかけながら云った、「――聞えたでしょ、栄ちゃん」
「ええ」と栄二はおすえに振り向いて云った、「お茶にしていただきましょうか」
おすえが「はい」と云い、おそのが栄二の膝を手でゆすりながら、自分のうたったのが聞えたかどうかと、答えをせがんだ。おすえは眼をそらして去り、栄二はおそのの手を静かに押しのけた。