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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

栄二は土間へ膝をついてもいいと思った。手代は去ってゆき、小僧はまた麻袋を打ちにかかった。こんな火のけもないあがりっぱたで、天下の通用金から僅かばかりの金屑をへずるために、小僧一人をこんなふうに使うとは、これだけの大店として恥ずかしくないのかな、と栄二は思った。

――しょうばいを身につけるんならどんなに辛いことでもいいだろうが、こいつはいわば御法度にそむく罪じゃあねえか、あきんどなんてものはあさましいもんだな。

彼は心の中で唾を吐いた。手代が戻って来て、あがれと云い、次の間の八帖へとおした。そして手代と入れ替りに、番頭の儀兵衛があらわれ、用はなんだと、立ったままできいた。栄二は旦那に会いたいと云った。

「私はこの店の番頭だよ」と儀兵衛は爪楊枝で歯をせせりながら云った、「店のことはなんによらず任されているんだ、用があるなら私が聞きましょう」

栄二はそこへ両手を突いた、「話というのはこのまえの金襴の切のことなんで、どうしても旦那とじかに会ってうかがいてえことがあるんです」

「あれはもう済んだことじゃないか」

「あっしのほうは済んじゃあいません」

「あれは済んだことだ」