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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
すると曹操は、
「決して無為に過しているわけではない。今に遼東から、袁煕、袁尚の首を送ってくるであろうから、それを待っているのだ」と、答えた。
諸将は、彼の心事を怪しみ、また嘲笑を禁じ得なかった。ところが半月ほどすると、太守公孫康の使者は、ここに到着し、書を添えて、匣に入れた塩漬の首二顆を正式に献じた。
さきに嘲けり笑っていた諸人は驚いた。曹操は限りなく笑い興じて、
「郭嘉の計にたがわず、故人の遺書の通りになった。彼も地下で満足したろう」
と、種明しをして聞かせた。
それによると、郭嘉は、遺書のうちに、「遼東ハ兵ヲ用イズシテ攻ムベシ。動カザレバ即チ、坐シテ袁二子ノ首級オノズカラ到ラン」と極力、進攻をいましめていた。
つまり彼は、遼東の君臣が、袁家の圧力に対して、多年伝統的に、反感や宿怨こそ持っているが、何の恩顧も好意も寄せていないことを、疾くに洞察していたからである。
こういう先見の明もありながら、ここ易州の軍旅のうちに病死した郭嘉は、年まだ三十八歳であった。
さて曹操は、遼東の使者を厚くねぎらい、公孫康へ報ゆるに襄平侯左将軍の印を以てした。そして郭嘉の遺髪を手厚く都へ送り、やがて自身も、全軍を領して、冀州まで帰った。