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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

そして、司馬徽が云った、臥龍、鳳雛の一人がもしやその浪士ではないかしらなどと思った。

彼は馬からおりて、浪士が側を通るのを待っていた。布衣草履少しも身は飾っていないが、どこかに気概の凛たるものを備え、赭顔疎髯、まことに渋味のある人物だ。

「あいや、ご浪人」

玄徳は呼んで話しかけた。浪士は怪しんでじろじろ彼を視つめる。もの云えばさびのある声で、眼光はするどいが、底にたまらない情味をたたえていた。

「何ですか。――お呼びになったのは拙者のことで?」

「そうです。まことに唐突ですが、何ですか、あなたと私とは、路傍でこのまま相へだたってしまう間がらではないような気がしてなりません」

「ははあ……?」

「いかがでしょう。私と共に、城中へお越し下さるまいか。一献酌みわけて、さびのあるあなたの吟嘯を、清夜、さらに心腸を澄まして伺いたいと思うが」

「ははは、拙者の駄吟などは、お耳を汚すには足りません。けれど路傍の人でない気がすると仰っしゃったお言葉に感謝する。――お伴しましょう」

浪士は気軽であった。

城中へ来てみると、小城ながら新野の城主と分って、気軽な彼もやや意外な顔をしていたが、玄徳は上賓の礼をもって、これを迎え、酒をすすめながら、さて名をたずねた。