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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
「むむ。いかにも、おもしろい考えだ。さっそく、老母へ書簡をつかわしてみよう」
日を経て、徐庶の母は、都へ迎えとられて来た。使者の鄭重、府門の案内、下へも置かない扱いである。
けれど、見たところ、それは平凡な田舎の一老婆でしかない。まことに質朴そのものの姿である。幾人もの子を生んだ小柄な体は、腰が曲がりかけているため、よけい小さく見える。人に馴れない山鳩のような眼をして、おどおどと、貴賓閣に上がり、あまりに豪壮絢爛な四壁の中におかれて、すこし頭痛でも覚えてきたように迷惑顔をしていた。
やがてのこと、曹操は群臣を従えて、これへ現れたが、老母を見ると、まるでわが母を拝するようにねぎらって、
「ときに、おっ母さん、あなたの子、徐元直はいま、単福と変名して、新野の劉玄徳に仕えておるそうですな。どうしてあんな一定の領地も持たない漂泊の賊党などに組しておるのですか。――可惜、天下の奇才を抱きながら」
と、ことばもわざと俗に噛みくだいて、やんわりと問いかけた。
三
老母は、答を知らない。相かわらず、山鳩のような小さい眼を、しょぼしょぼさせて、曹操の顔を仰いでいるだけだった。