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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

晴耕雨読――その文字どおりに。

「いやに、老成ぶったやつではないか」

「いまから隠棲生活を気どるなんて」

「彼は、形式主義者だ」

「衒いに過ぎん」

学友はみな嘲笑した。多少彼を認め彼を尊敬していた者まで、月日とともにことごとく彼を離れた。

ただ、その後も相かわらず、彼の草廬へよく往来していたのは、徐庶、孟建ぐらいなものだった。

襄陽の市街から孔明の家のある隆中へ行くには、郊外の道をわずか二十里(わが二里)ぐらいしかない。

隆中は山紫水明の別天地といっていい。遠く湖北省の高地からくる漢水の流れが、桐柏山脈に折れ、※水に合し、中部支那の平原をうねって、名も水と変ってくると、その西南の岸に、襄陽を中心とした古い都市がある。

孔明の家から、晴れた日は、その流れ、その市街がひと目に見えた。彼の宅地は隆中の小高い丘陵の中腹にあり、家のうしろには、楽山とよぶ山があった。

――歩みて斉の城門を出づ

遥かにのぞむ蕩陰里

里中、三墳、塁として相似たり

問うこれ、誰が家の塚ぞ

田疆・古冶氏

力はよく南山を排し

文はよく地紀を絶つ

畑の中で、真昼、よくこんな歌が聞える。

歌はこの辺の民謡でなく、山東地方の古い昔語りをうたうものだった。