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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

日をかさねて、関羽たちは、滑州(河南省・黄河の河港)の市城へはいった。

太守劉延は、弓槍の隊伍をつらねて、彼を街上に迎えて、試問した。

「この先に大河がある。将軍は、何によって渡るおつもりか」

「もちろん船で」

「黄河の渡口には夏侯惇の部下秦が、要害を守っておる。かならず、将軍の渡るをゆるすまい」

「願わくは、足下の船をからん。それがしらのために、便船を発せられい」

「船は多くあるが、将軍に貸す船はない。何となれば、曹丞相からさようなお沙汰はとどいていないからである」

「無用の人かな」

と、関羽は、一笑のもとにつぶやいて、そのまま車を押させ、直接、秦の陣へおもむいた。

河港の入口に、猛兵を左右にしたがえ、駒を立てていた豹眉犬牙の荒武者がある。

「止れっ。――来れるものは何奴であるか」

「秦は、足下か」

「そうだ」

「われは漢の寿亭侯関羽」

「どこへ参る」

「河北へ」

「告文を見せろ」

「なし」

「丞相の告文がなくば、通過はゆるさん」

「曹丞相も、漢の朝臣、それがしも漢の一臣たり、なんで曹操の下知を待とうぞ」

「翼があるなら飛んで渡れ。さような大言を吐くからには、なおもって、一歩もここを通すことはまかりならぬ」