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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
幅のある背を向けて、老人と対しているのは、白皙黒鬢の壮士で、親子か友人か、よほど親しい仲らしい。
玄徳は慇懃に、酒興を醒ました無礼をわびて、
「それに在すは、臥龍先生とはちがいますか」と、老人へ向って云った。
「ちがう……」
老人は顔を振って苦笑する。
玄徳はさらに、若いほうの人物にむかって、
「もしや孔明先生は、其許ではありませんか」と、訊いてみた。
「ちがいます」と、若いほうも、明晰に否定する。
老人はいぶかしげに、次に自分のほうから訊ねた。
「かかる雪中、臥龍をおたずねあるは、そも、何事ですか。また将軍こそ、如何なるお人か?」
「申しおくれた。自分は漢の左将軍、予州の牧、劉玄徳というもの。――孔明先生を訪うわけは、乱世の現状を治め、済民の道を問わんがためです」
「えっ、では新野のご城主ではありませんか」
「そうです。今、戸外を通るに、旺な声をして、慷慨の歌を吟ずる声がしました。察するに必ず先生ならんと――われを忘れてこれへはいって来たわけですが」
「それはどうも」
二人は、顔を見合わせて、
「折角でしたが、われわれはいずれも、孔明ではありません。ただ臥龍の友だちどもです。