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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

玄徳はここで筆を按じ、瞳を、外の霏々たる雪に向けていた。

張飛は、聞えよがしに、

「ううっ、たまらぬ。家兄は詩でも作っているのか。さりとは、風流な」

それを耳にもかけない玄徳であった。さらに、筆を呵して――

匡済の忠はありといえども、経綸の妙策なきを如何にせん。仰いで啓す。

先生の仁慈惻隠、忠義慨然、呂望の才を展べ子房の大器を施すを。備、これを敬うこと神明の如く、これを望むや山斗の如し。一見を求めんとして得べからず、再び十日斎戒薫沐して、特に尊顔を拝すべし。乞う、寛覧を垂れよ。鑒察あらば幸甚。

建安十二年十二月吉日再拝

「帋筆をお下げあれ」

「おすみになりましたか」

「先生がお帰りになられたらはばかりながらこの書簡を座下に呈して下さい」

云いのこして、玄徳は堂をおり、関羽、張飛をつれて、黙々、帰って行った。

門外に出て、馬を寄せ、すでにここを去ろうとした時である、送ってきた童子は客も捨てて彼方へ高く呼びかけていた。

「老先生だ。――老先生! 老先生!」

五

童子は待ちきれず、彼方へ馳けだして行った。

玄徳の一行もやや進んでいた。

孔明の家の長い籬のきれたところに、狭い渓へかかっている小橋がある。