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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
――そして将軍が民を憂い国を思う情の切なるものは、充分に拝察できましたが、如何せん、私はまだ若年、しかも菲才、ご期待にこたえる力がないことを、ただただ遺憾に思うばかりです」
「…………」
玄徳はまず彼の語韻の清々しさに気づいた。低からず、高からず、強からず、弱からず、一語一語に、何か香気のあるような響きがある。余韻がある。
すがたは、坐していても、身長ことにすぐれて見え、身には水色の鶴を着、頭には綸巾をいただき、その面は玉瑛のようだった。
たとえていえば眉に江山の秀をあつめ、胸に天地の機を蔵し、ものいえば、風ゆらぎ、袖を払えば、薫々、花のうごくか、嫋々竹そよぐか、と疑われるばかりだった。
「いやいや。あなたをよく知る司馬徽や徐庶のことばに、豈、過りがありましょうか。先生、愚夫玄徳のため、まげてお教えを示して下さい」
「司馬徽や徐庶は、世の高士ですが、自分はまったく、ありのままな、一農夫でしかありません。何で、天下の政事など、談じられましょう。――将軍はおそらく玉を捨てて石を採るようなお間違いをなされている」
「石を玉と見せようとしてもだめなように、玉を石と仰せられても、信じる者はありません。