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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
その晩、みな寝しずまってから、一つの事件が起った。
五、六人の悪党が忍びこんで、厩の赤兎馬を盗みだそうとしたところ、悍気のつよい馬なので、なかの一人が跳ねとばされたらしく、その物音に、みな眼をさまして大騒ぎとなったのだった。
しかも、孫乾や、車の扈従たちが包囲して捕まえてみると、その中のひとりは宵にちらと見たこの家ののら息子だった。数珠つなぎに縛りあげて、
「斬ってしまえ」
と、孫乾が息まいているとき、主の郭常は、関羽のところに慟哭しながら転げこんできた。
「お慈悲です。あんな出来損いではございますが、てまえの老妻には、あれがいなくては、生きがいもないくらい、可愛がっている奴でございます。どうぞお慈悲をもって、あれの一命だけは」
と、十ぺんも莚へ額をすりつけて詫びた。
関羽の一言で、泥棒たちは、放された。
郭常夫婦はわが子の恩人と、あくる朝も、首をならべて百拝した。
「こんな良い親をもちながら、勿体ないことを知らぬ息子だ。これへ呼んでくるがいい、置き土産にそれがしが訓戒を加えてやろう」
関羽のことばに、老夫婦はよろこんで連れに行ったが、のら息子は、家の中にいなかった。