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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
飛馬は見るまに渓谷へ駈けおりて、また彼方の山裾をめぐり、ほどなく目的の古城の下に近づいた。
その昔、いかなる王侯が居を構えていたものか、規模広大な山城であるが、山嶂の塁壁望楼はすべて風化し、わずかに麓門や一道の石階などが、修理されてあるかに見える。刺を通じると、番卒から部将に、部将から張飛にと、孫乾の来訪が伝えられた。
「孫乾が来るわけはない。偽者だろう」
張飛の大声が中門に聞えた。孫乾は思わず、
「俺だよ、俺だよ」と、麓門の側でどなった。
「やあ、やはりおぬしか。どうしてやって来た」
彼の元気は相変らずすばらしい。高い石段の上から手をあげて呼び迎える。やがて通されたのは山腹の一閣で、張飛はここに構えて王者を気取っているようである。
「絶景だな。うまい所を占領したものじゃないか。これで一万の兵馬と三年の糧食があれば一州を手に入れることは易々たるものだ」
孫乾がいうと、張飛は、呵々と笑って、
「住んでからまだ三月にしかならないが、もう三千の兵は集まっている。一州はおろか、十州、二十州も伐り従えて故主玄徳のお行方が知れたら、そっくり献上しようと考えておるところだ。