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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

……云いのこしたいことがある」

夫人は、慟哭して、涙に沈んでいるばかりだった。典医や侍臣たちは、

「すこし、ご容子が……」と、すぐ城中へ報らせた。

張昭以下、譜代の重臣や大将たちが、ぞくぞくと集まった。

孫策は、牀に起き直ろうとしたが、人々が強いてとめた。わりあいに彼の面色は平静であったし、眸も澄んでいた。

「水をくれい」と求めて、唇の渇きをうるおしてから、静かに彼はいいだした。

「いまわが中国は、大きな変革期にのぞんでいる。後漢の朝はすでに咲いて凋落におののく花にも似ている。黒風濁流は大陸をうずまき、群雄いまなおその土に処を得ず、天下はいよいよ分れ争うであろう。……ときに、わが呉は三江の要害にめぐまれ、居ながらにして、諸州の動向と成敗を見るに充分である。とはいえ、地の利天産にたのむなかれ。……あくまで国を保つものは人である。汝ら、われ亡きあとは、わが弟を扶け、ゆめ怠るな」

そういって、細い手を、わずかにあげて、

「弟、弟……孫権はいるか」と見まわした。

「はい、はい、孫権はここにおりまする」

群臣のあいだから、あわれにもまだ年若い人の低い声がした。

三

それは弟の孫権だった。