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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
のみならず、諸戸は已にこの事件の犯人を知っていると云い、それを今私に打開けようとさえしているのだ。生前の深山木の鋭い探偵眼に驚いていた私は、ここにその深山木以上の名探偵を発見して、更らに一驚を喫しなければならなかった。長い間の交際を通じて、性慾倒錯者として、無気味な解剖学者として、諸戸が甚だ風変りな人物であることは知っていたけれど、その彼に、かくの如き優れた探偵能力があろうとは誠に想像だもしなかった所である。意外なる局面の転換に私はあっけにとられた形であった。
これまでの所では、読者諸君にも多分そうである様に、当時私にとっても、諸戸道雄は全く謎の人物であった。彼には何かしら、世の常の人間と違った所があった。彼の従事していた研究の異様なこと(その詳しいことは後に説明する機会がある)性慾倒錯者であったこと等が、彼をそんな風に見せたのかも知れないが、併し、どうもそれ丈けではなかった。表面善人らしく見えていて、その裏側に、えたいの知れぬ悪がひそんでいる。彼の身辺には、陽炎の様に、不気味な妖気が立昇っている、と云った感じなのである。それと、彼が素人探偵として私の前に現われたのが、余りにも突然であったのとで、私は彼の言葉を信じ切れない気持であった。