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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

その一つは、思いもかけぬ木崎初代の実家の系図帳で、嘗つて彼女が私に預け、思い出して見ると、私が最初深山木を訪ねた時、彼に渡したままになっていたものである。もう一つは、古い雑記帳様のもので、殆ど全頁、鉛筆書きの文字で埋まっていた。それが如何に不思議千万な記録であったかは追々に説明する。

「アア、これが例の系図帳だね。僕の想像していた通りだ」諸戸はその系図帳の方を手に取って叫んだ。

「この系図帳こそ曲者なんだ、賊が命がけで手に入れようとした『品物』なんだ。それはね、今までのことをよく考えて見れば分ることなんだよ。先ず最初、初代さんが手提袋を盗まれた。尤も当時已に系図帳は君の手に渡っていたけれど、その以前には初代さんはこれをいつも手提げに入れて側から離さなんだというのだから、賊はその手提げさえ奪えばいいと思ったのだよ。ところが、それが無駄骨に終ったので、今度は君に目をつけたが君は偶然にも賊の手出しをする前に、深山木氏に系図帳を渡してしまった。深山木氏がそれを持ってどこかへ旅行をした。そして、恐らく有力な手掛りを掴むことが出来た。間もなく例の脅迫状が来て、深山木氏は殺されたのだが、今度も又、当の系図帳は已にこの石膏像の中に封じて君の手に返っていたので、賊は空しく深山木氏の書斎をかき乱したに過ぎなかった。