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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

だが、系図帳はいつも初代さんが肌身離さず持って歩くことが分ったものだから、次には……」

諸戸はそこまで云って、ハッと何事かに気づいた様子で、真青になった。そして、黙り込んで、大きく開いた目でじっと空間を見つめた。

「どうかしたの?」

と私が尋ねても、彼は返事もしないで、長い間押黙っていたが、やがて、気をとり直して、何気なく話の結末をつけた。

「次には……とうとう初代さんを殺してしまった」

だが、それは何か奥歯に物のはさまった様な、ハキハキしない云い方であった。私は、その時の、諸戸の異様な表情をいつまでも忘れることが出来なかった。

「ですが、僕には、少し分らない所がありますよ。初代にしろ、深山木さんにしろ、何故殺さなければならなかったのでしょう。殺人罪まで犯さなくても、うまく系図帳を盗み出す方法があったでしょう」

「それは、今の所僕にも分らない。多分別に殺さねばならぬ事情があったのでしょう。そういう所に、この事件の単純なものでないことが現われている。だが、空論はよして、実物を検べて見ようじゃないか」

そこで、私達は二冊の書き物を検べたのだが、系図帳の方は、嘗つて私も見て知っている様に、何の変りとてもない普通の系図帳に過ぎなかったけれど、もう一冊の雑記帳の内容は、実に異様な記事に満たされていた。