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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

そしてその土地こそ私の懐しい生れ故郷なのよ」

「ちょっと、ちょっと」私はその時、初代の話をとめて云った。「僕、まずいけれど、そこの君の夢に出て来る景色は、何だか絵になり相だな。書いて見ようか」

「そう、じゃあもっと詳しく話しましょうか」

そこで、私は机の上の籠に入れてあったホテルの用箋を取出して、備つけのペンで、彼女が岩山から見たという海岸の景色を描いた。その絵が丁度手元に残っていたので、版にしてここに掲げて置くが、この即席のいたずら書きが、後に私にとって甚だ重要な役目をつとめてくれ様などとは、無論その時には想像もしていなかったのである。

「マア、不思議ねえ。その通りですのよ。その通りですのよ」

初代は出来上った私の絵を見て、喜ばしげに叫んだ。

「これ、僕貰って置いてもいいでしょう」

私は、恋人の夢を抱く気持で、その紙を小さく畳み、上衣の内ポケットにしまいながら云った。

初代は、それから又、彼女が物心ついてからの、様々の悲しみ喜びについて、尽きぬ思出を語ったのである。が、それはここに記す要はない。兎も角も、私達はそうして、私達の最初の夜を、美しい夢の様に過してしまったのである。