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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
おしろいはなかったけれど、朝水で顔を洗う時、一生懸命にこすって、顔を綺麗にしようと思いました。頭の髪も、ガラスを見て、自分で考えて、絵に書いてある様な風に結ぶことを習いました。初めは下手でしたけれど、だんだん髪の形が絵に似て来るようになりました。私が髪を結んでいる時に唖のおとしさんが来ると、おとしさんも手伝って下さいました。秀ちゃんがだんだん綺麗になって行くのが、嬉しくて嬉しくて仕様がありませなんだ。
吉ちゃんは、ガラスを見ることも、綺麗になることも好きでないものですから、秀ちゃんの邪魔ばかりしましたが、それでも時々「秀ちゃんは綺麗だなあ」と云って、ほめました。
けれども、綺麗になる程、秀ちゃんは、前よりももっと片輪者が悲しくなりました。いくら秀ちゃんだけ綺麗にしても、半分の吉ちゃんが汚いし、身体の巾があたり前の人の倍もありますし、着物も汚いし、秀ちゃんの顔だけ綺麗にしても、悲しくなるばかりです。それでも、吉ちゃんの顔だけでも、綺麗にしようと思って、秀ちゃんが水でこすったり、髪を結んだりしてやりますと、吉ちゃんは怒り出すのです。何という分らない吉ちゃんでしょうか。