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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
それですから、秀ちゃんが十ものを考える間に、吉ちゃんは一つ位しか考えられません。その代りに、考えたことを、すぐ喋ったり、手でやったりいたします。
吉ちゃんはある時「秀ちゃんは、今でも別々の人間になりたいか。ここの所を切り離したいか。吉ちゃんは、もうそんなことはしたくないよ。こんな風にくっついている方が、よっぽど嬉しいよ」と申しました。そして、涙ぐんで、赤い顔をいたしました。
なぜか知りませんが、その時秀ちゃんも顔があつくなって来ました。そして、今まで一度も知らなんだ様な、妙な妙な気持がしました。
吉ちゃんは、少しも秀ちゃんをいじめぬ様になりました。ガラスの前でお化粧する時にも、朝、顔を洗う時にも、夜蒲団を敷く時にも、少しも邪魔をしませんで、お手伝いをいたしました。何かすることは、みんな「吉ちゃんがするからいいよ」と申して、秀ちゃんが楽な様に楽な様にといたしました。
秀ちゃんが、三味線を弾いて、歌を歌って居りますと、吉ちゃんは、今までの様に、あばれたり呶鳴ったりしませんで、じっとして、秀ちゃんの口の動くのを、見つめて居りました。秀ちゃんが髪を結ぶ時でも、同じでした。