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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

せめて、本を読む時と、字を書く時と、窓から海の方を見ている時丈けでも、吉ちゃんの身体が離れてほしいと思いました。いつでもいつでも、吉ちゃんのいやな血の音が響いていますし、吉ちゃんの匂がしていますし、身体を動かすたんびに、ああ私は悲しい片輪者だと思い出すのです。此頃では、吉ちゃんのギラギラした目が、顔の横から、いつでも秀ちゃんを見て居ります。鼻いきの音がうるさく聞えますし、怖いような匂がしますし、私はいやでいやでたまりません。

ある時吉ちゃんが、オンオン泣きながら、こんなことを申しました。それで、私は少し吉ちゃんが可愛想になりました。

「吉ちゃんは秀ちゃんが好きで好きでたまらんのに、秀ちゃんは吉ちゃんが嫌いだもの、どうしよう、どうしよう。いくら嫌われても、離れることは出来んし、離れなんだら、秀ちゃんの綺麗な顔やいい匂がいつでもしているし」と申して泣きました。

吉ちゃんは、しまいに無茶苦茶になって、私がいくらいやいやと申しても、力ずくで、秀ちゃんを抱きしめようといたしますが、身体が横にくっついているものですから、どうしても思う様になりません。それで私はいい気味だと思いますが、吉ちゃんはよっぽど腹が立つと見えて、顔に一杯汗を出して、ギャアギャア呶鳴って居ります。