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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

そうしている内に、段々「お父つぁん」という人物の、えたいの知れぬ恐ろしさが、一寸法師や友之助が、あんなに恐れ戦いた訳が、北川氏にも少しずつ分って来る様な気がした。一寸法師の物の云い方が不明瞭なので、確な形を掴むことは出来なかったけれど、ある場合には、それは人間ではなくて、一種の不気味な獣類という感じがした。伝説の鬼というのは、こんな生物をさして云ったのではないかとすら思われた。一寸法師の言葉や表情が、おぼろげに、そんな感じを物語っているのだった。

又「箱」というものの意味も、ぼんやりと分って来る様であった。ほんの想像ではあったけれど、その想像にぶっつかった時、流石の北川氏も余りの恐ろしさに、ゾッと身震いしないではいられなかった。

「俺は、生れた時から、箱の中に這入っていたんだよ。動くこともどうすることも出来ないのだよ。箱の穴から首丈け出して、ご飯をたべさせて貰ったのだよ。そしてね、箱詰めになって、船にのって、大阪へ来たんだ。大阪で箱から出たんだよ。その時俺ぁ、生れて始めて広々した所へ出されたんで、怖くって、こう縮み上ってしまったよ」

一寸法師はある時、そう云って、短い手足を生れたばかりの赤ん坊みたいに、キューッと縮めて見せるのだった。