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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
それを云うのは、非常に恥しい丈けでなく、ムカムカと吐き気を催す程いやなのだが、僕は十歳を越した時分から、絶間なく母親の為に責めさいなまれた。お化けの様な大きな顔が、僕の上に襲いかかって、所嫌わず嘗め廻した。その唇の感触を思出した丈けで、今でも総毛立つ程だ。あるむず痒い不快を感じて目を醒すと、いつの間にか母親が僕の寝床に添寝していた。そして、「ね、いい子だからね」と云いながら、ここで云えない様なことを要求した。僕はあらゆる醜悪なものを見せつけられた。その堪え難い苦痛が三年も続いた。僕が家庭を離れたく思った一半の理由は、実はこれなのだ。僕は女というものの汚さを見尽した。そして、母親と同時に、あらゆる女性を汚く感じ憎悪する様になった。君も知っている僕の倒錯的な愛情はこんな所から来ているのではないかと思うのだよ。
それから、君は驚くかも知れないが、僕が初代さんに結婚を申込んだのも、実は親の命令なのだよ。君と初代さんが愛し合う前から、僕は木崎初代という女と結婚しろと命じられていた。父の手紙と例によって松山が父の使いみたいに頻々とやって来るのだ。偶然の一致とは云え、不思議な因縁だね。