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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
夕暮の薄暗い光線のせいではあったが、私は生れてから、あんな醜怪な老婆を見たことがなかった。背が低い上に、肉が垂れ下る程もデブデブ肥え太っていて、その上傴僂で、背中に小山の様な瘤があるのだ。顔はと云うと、皺だらけの渋紙色の中に、お玉じゃくしの恰好をした、キョロンとした目が飛出し、唇が当り前でないと見えて、長い黄色い乱杭歯が、いつでも現われている。その癖上歯は一本もないらしく、口を塞ぐと、顔が提灯の様に不気味に縮まってしまうのだ。
「誰だえ」
老婆は、私達の方をすかして見て、怒った様な声で尋ねた。
「僕ですよ。道雄ですよ」
諸戸が顔をつき出して見せると、老婆はじっと見ていたが、諸戸を認めると、びっくりして、頓狂な声を出した。
「オヤ、道かえ。よくまあお前帰って来たね。あたしゃもう、一生帰らないのかと思っていたよ。そして、そこの人はえ」
「これ、僕の友達です。久し振りで家の様子が見たくなったものですから、友達と一緒に、はるばるやって来たんですよ。丈五郎さんは?」
「マアお前、丈五郎さんだなんて。お父つぁんじゃないか。お父つぁんとお云いよ」
この醜怪な老婆は諸戸の母親だった。