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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
そんな変てこな状態のままで、この不思議な親子は、ポツリポツリと、それでも一時間ばかり話をしていた。その内今でも記憶に残っているのは、次の二つの問答である。
「あなたは近頃どこかに旅行をなすったのじゃありませんか」
諸戸が何かの折に、その点に触れて云った。
「いんや、どこへも行かない。のうお高」
老人は傍にいた母親の方を振向いて助勢を求めた。気のせいかその時老人の目が、ある意味をこめてギョロリと光った様に見えた。
「東京でね、あなたとそっくりの人を見かけたんですよ。若しかしたら、私に知らせないで、こっそり東京へ出られたのかと思って」
「馬鹿な。そんな、この年で、不自由な身体で、東京なんぞへ出て行くものかな」
だが、そう云う老人の目が、やや血走って、額が鉛色に曇ったのを、私は見逃さなんだ。諸戸は強いて追及せず、話頭を転じたが、暫くすると、又別の重要な質問を発した。
「庭が掘返してある様ですが、どうしてこんなことをなすったのですか」
老人は、この不意撃ちに会って、ハッと答えに窮したらしく長い間押黙っていたが、
「ナニ、これはね、のうお高、六めの仕業だよ。ホラお前も知っている通り、家には可哀想な一人前でない連中を養ってあるが、その内に六という気違いがいるのだよ。