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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

昔は、諸戸屋敷の外に、ここにも別の屋敷があったのかも知れない。

それは兎も角、私は間もなく、問題の土蔵のすぐ下に達した。無論土塀はあったけれど、蔵が土塀に接して建っているので、外からでも極く間近く見える。予期した通り、土蔵の二階には、裏手に向って小さな窓が開いていた。鉄棒のはまった所まで、例の日記の通りである。私は胸を躍らせながら、その窓を見上げて、辛抱強く立ちつくしていた。はげ残った白壁に、朝日が赤々と照映えて、開放的な海の香が、ソヨソヨと鼻をうつ。凡てが明るい感じで、この土蔵の中に例の怪物が住んでいるなどとは、どうにも考えられないのだ。

だが、私は見た。暫く傍見をしていて、ひょいと目を元に戻すと、いつの間にか、窓の鉄棒のうしろに、胸から上の、二つの顔が並び、四本の手が鉄棒を掴んでいた。

一つの顔は青黒く、頬骨の立った、醜い男性であったが、もう一つのは、赤味はなかったけれど、きめの細い真白な若い女性の顔であった。

少女の一杯に見開いた目が、私の見上げる目とパッタリ出会うと、彼女は此世の人間には見る事の出来ない様な、一種不思議な羞恥の表情を示して、隠れる様に首をうしろに引いた。