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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
娘の美しさを際立たせたとしても、その垣間見の印象が、あれ程強く私の心を捉えたというのは何とやらただごとではない感じがした。
読者も知る様に、私はなき木崎初代に全心の愛を捧げていた。彼女の灰を飲みさえした。そして、諸戸と一緒にこの岩屋島へ来たのも、初代の敵を確かめたいばっかりではなかったか。その私がたった一目見たばかりの、しかも因果な片輪娘の美しさにうたれた。美しさにうたれたというのは、別の言葉を使えば、愛情を感じたことである。恋しく思ったことである。そうだ、私は白状するが、片輪娘秀ちゃんに恋を感じたのである。アア、何という情ないことだ。初代の復讐を誓ったのは、まだ昨日の様に新らしい事ではないか。現に今お前は、その誓いを実行する為に、この孤島へ来ているのではないか。それが、到着するかしないに、人もあろうに人外の片輪娘を恋するとは、知らなんだ。私は、こうも見下げ果てた男であったのかと、その時はそんな風に我と我身を恥じた。
併し、如何に恥しいからと云って、恋する心は、どうにも出来ぬ真実である。私は何かと口実を設け、我が心に言訳をしながら、隙さえあれば、ソッと邸を抜け出して例の土蔵の裏手へ廻るのであった。