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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
そして、最後の土壇場になって、彼は遂に負けた。異様なる父と子の戦いは、かくして終局をつげたのであろうか。
長い長い間、土蔵の窓の諸戸と目を見交していたが、とうとう彼の方から、もう行けという合図をしたので、私は別段の考えもなく、殆ど機械的に諸戸屋敷の門の方へ歩いて行った。立去る時、諸戸の青ざめた顔のうしろの薄暗い中に、秀ちゃんの怪訝な顔がじっと私を見つめているのに気づいた。それが一層私を果敢ない気持にした。
だが、私は無論帰る気になれなんだ。道雄を救わねばならぬ。秀ちゃんを助け出さねばならぬ。仮令道雄が如何に反対しようとも、私は初代の敵を見捨ててこの島を立去ることは出来ぬ。そして、あわよくば、なき初代の為に、彼女の財宝を発見してやらねばならぬ。(不思議なことに、私は何の矛盾をも感じないで、初代と秀ちゃんとを、同時に思うことが出来た)諸戸の頼みがなくても、警察の力を借りるのは最後の場合だ。私はこの島に踏み止まって、もっと深く探って見よう。滅入っている諸戸を力づけて、正義の味方にしよう。そして、彼の優れた智恵を借りて、悪魔と戦おう。私は諸戸屋敷の自分の居間に帰るまでに、雄々しくもこの様に心を定めた。