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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

それにしても、彼は腕力で親達に手向う積りなのであろうか。

長い長い間、私は岩蔭にすくんでいた。暑い日だった。岩の日蔭ではあったけれど、足下の砂が触れない程焼けていた。いつもは涼しい浜風も、その日はそよともなく、波の音も、私自身が聾になったのではないかと怪しむ程、少しも聞えて来なかった。何とも底知れぬ静寂の中に、ただジリジリと夏の日が輝いていた。

クラクラと眩暈がしそうになるのを、こらえこらえして、じっと土蔵の窓を見つめていると、とうとう合図があった。鉄棒の間から、腕が出て、二三度ヒラヒラと上下するのが見えた。

私は矢庭に駈け出して、土塀を一廻りすると、表門から諸戸屋敷へ踏み込んで行った。

玄関の土間へ這入って、奥の方を覗いて見たが、ヒッソリとして人気もない。

仮令対手は片輪者とは云え、奸智にたけた兇悪無残な丈五郎のことだ、諸戸の身の上が気遣われた。あべこべにひどい目に会っているのではあるまいか、邸内が静まり返っているのが何となく不気味である。

私は玄関を上って、曲りくねった長い廊下を、ソロソロとたどって行った。

一つの角を曲ると、十間程も続いた長い廊下に出た。