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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

そんな一寸した事に、私はひどく心を動かすのだ。

野蛮人の様な吉ちゃんは、私と秀ちゃんが仲よくするのを見て、忽ち怒り出した。教養を知らぬ生地のままの人間は、猿と同じことで、怒った時に歯をむきだすものだということを、私はその時知った。吉ちゃんはゴリラみたいに歯をむき出して、身体全体の力で、秀ちゃんを私から引離そうと、もがいた。

そうしている所へ、騒ぎを聞きつけたのか、私のうしろの方の部屋から、一人の女が飛び出して来た。唖のおとしさんである。彼女は双生児が土蔵を抜け出したことを知ると、真青になって矢庭に秀ちゃん達を奥の方へ押し戻す恰好をした。

私はこの最初の敵を、苦もなく取押えた。対手は手をねじられながら、首を曲げて私を見、忽ち私の正体を悟ると、ギョッとして力が抜けてしまった。彼女は何が何だか少しも訳が分らぬらしく、従ってあくまで抵抗しようともしなかった。

そこへ、さっき双生児が走って来た方角から、奇妙な一団が現われて来た。先頭に立っているのは、諸戸道雄、そのあとに不思議な生物が五六人、ウヨウヨと従っていた。

私は諸戸屋敷に片輪者がいることは聞いていたが、皆明かずの部屋にとじ籠められていたので、まだ一度も見たことがなかった。