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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

「でも、こんな小さな島で、そんなことがあればすぐ分るでしょうがね。船着場だって一箇所しかないんだし、他国者が入り込めば、諸戸屋敷の人達だって、見逃す筈はないでしょうからね」

「そうだ。第一丈五郎程の悪者が、ありもしない宝の為に、あんな危い人殺しまでする筈がないよ。あの人には、きっと宝のある事丈けは、ハッキリ分っていたに相違ない。何にしても、僕にはどうも宝が取出されたとは思えない」

私達はこの異様な事実をどう解くすべもなく、出ばなをくじかれた形で、暫く思い惑っていた。だが、その時、私達が若しいつか船頭に聞いた話を思出したならば、そして、それとこれとを考え合わせたならば、宝が持出されたなどと心配する事は少しもなかったのだが、私は勿論、流石の諸戸も、そこまでは考え及ばなんだ。

船頭の話というのは、読者は記憶せられるであろう。十年以前、丈五郎の従兄弟と称する他国人が、この島に渡ったが、間もなくその死骸が魔の淵の洞穴の入口に浮上ったという、あの不可思議な事実である。

併し、そこへ気づかなんだのが、結句よかったのかも知れない。なぜといって、若しその他国人の死因について、深く想像を廻らしたならば、私達はよもや地底の宝探しを企てる勇気はなかったであろうから。