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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
「満潮の水面と、この洞穴の天井と、どちらが高いでしょう」
私は手探りで、諸戸の腕を掴んで叫んだ。
「僕も今それを考えていた所だよ」諸戸は静かに答えた。「それには、僕達が降った坂道と、昇った坂道と、どちらが多かったか、その差を考えて見ればいいのだ」
「降った方が、ずっと多いじゃありませんか」
「僕もそんなに感じる。地上と海面との距離を差引いても、まだ降った方が多い様な気がする」
「すると、もう助かりませんね」
諸戸は何とも答えなかった。私達は墓穴の様な暗闇と沈黙の中に茫然と立ちつくしていた。水面は、徐々に、だが、確実に高さを増して、膝を越え、腰に及んだ。
「君の智恵で何とかして下さい。僕はもう、こうして死を待っていることは、耐えられません」
私は寒さにガタガタ震えながら、悲鳴を上げた。
「待ち給え、まだ絶望するには早い。僕はさっき、蝋燭の光でよく調べて見たんだが、ここの天井は上に行く程狭く、不規則な円錐形になっている。この天井の狭いことが、若しそこに岩の割目なんかがなかったら、一縷の望みだよ」
諸戸は考え考えそんなことを云った。私は彼の意味がよく分らなんだけれど、それを問い返す元気もなく、今はもう腹の辺までヒタヒタと押し寄せて来た水に、ふらつきながら、諸戸の肩にしがみついていた。