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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

その間水に浮いていること位なんでもなかった。やがて引潮が来た。増した時と同じ位の速度で、水はグングン引いて行った。尤も、水の入口は、洞窟よりも高い箇所にあるらしく(それがある水準まで潮が満ちた時、一度に水が這入って来たのだが)その入口から水が引くのではなかったけれど、洞窟の地面に、気附かぬ程の裂け目が沢山あって、そこからグングン流れ出して行くのだ。若しそれがなかったら、この洞窟には絶えず、海水が満ちていたであろう。さて数十分の後、私達は水のかれた洞窟の地面に立つことが出来た。助ったのだ。だが、講釈師ではないけれど、一難去って又一難だ。私達は今の水騒ぎで、マッチをぬらしてしまった。蝋燭はあっても、点火することが出来ない。それに気づいた時、闇の為見えはしなかったけれど、私達はきっと真青になったことに相違ない。

「手さぐりだ。ナアニ、光なんかなくったって、僕等はもう闇になれてしまった。手さぐりの方が却って、方角に敏感かも知れない」

諸戸は泣き相な声で、負けおしみを云った。

絶望

そこで、私達はさい前の諸戸の考案に従って、右手で右側の壁に触りながら、突当ったら又反対側の壁を後戻りする様にして、どこまでも右手を離さず、歩いて見ることにした。