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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
絶えず壁に触っていたので右手の指先が擦りむけてしまった程だ。足は自動機械になってしまった、自分の力で歩いているとは思えなんだ。この足が、止めようとしたら、止まるのかしら、と疑われる程であった。
恐らく、まる一日は歩いたであろう。ひょっとしたら二日も三日も歩き続けていたのかも知れない。何かにつまずいて、倒れる度に、そのままグーグー寝入ってしまうのを、諸戸に起されて又苦行を続けた。
だが、その諸戸でさえ、とうとう力の尽きる時が来た。突然彼は「もう止そう」と叫んで、そこへ蹲ってしまった。
「とうとう死ねるんだね」
私はそれを待ちこがれていた様に尋ねた。
「アア、そうだよ」諸戸は、当り前の事みたいに答えた。「よく考えて見ると、僕等は、いくら歩いたって、出られやしないんだよ。もうたっぷり五里以上歩いている。いくら長い地下道だって、そんな馬鹿馬鹿しいことはないよ。これには訳があるんだ。その訳を、僕はやっと悟ることが出来たんだよ。何て馬鹿野郎だろう」
彼は、烈しい息づかいの下から、瀕死の病人みたいな哀れな声で話しつづけた。
「僕は大分前から、指先に注意を集中して、岩壁の恰好を記憶する様にしていた。