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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
今度僕が突然帰って来て、親爺を人殺しだと云って責めた。そこで、奴は初めて、不具者の呪いを打ちあけて、親の生涯の復讐事業を助けてくれと、僕の前に手をついて、涙を流して頼んだ。僕の外科医の知識を応用してくれと云うのだ。
恐ろしい妄想だ。親爺は日本中から健全な人間を一人もなくして、片輪者ばかりで埋めることを考えているんだ。不具者の国を作ろうとしているのだ。それが子々孫々の遵守すべき諸戸家の掟だと云うのだ。上州辺で天然の大岩を刻んで、岩屋ホテルを作っている親爺さんみたいに、子孫幾代の継続事業として、この大復讐を為しとげようと云うのだ。悪魔の妄想だ。鬼のユートピアだ。
そりゃ、親爺の身の上は気の毒だ。併し、いくら気の毒だって、罪もない人の子を、箱詰めにしたり、皮をはいだりして、見世物小屋に曝すなんて、そんな残酷な、地獄の陰謀に加担出来ると思うか。それに、あいつを気の毒だと思うのは、理窟の上丈けで、僕はどういう訳か真から同情出来ないのだ。変だけれど、親の様な気がしないのだ。母にしたって同じことだ。我子をいどむ母親なんて、あるものか。あいつら夫婦は生れながらの鬼だ。