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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

若しや……」

私が云いかけると、相手は嬉し相に叫び出した。

「アア、そうだ。お前さん蓑浦さんだね。もう一人は、道雄さんだろうね。わしは徳だよ。丈五郎に殺された徳だよ」

「アア、徳さんだ。君、どうしてこんな所に」

私達は思わず声を目当に走り寄って、お互の身体を探り合った。

徳さんの舟は魔の淵の所で、丈五郎の落した大石の為に顛覆した。だが、徳さんは死ななかったのだ。丁度満潮の時だったので、彼の身体は、魔の淵の洞窟の中へ吸い込まれた。そして、潮が引き去ると、ただ一人闇の迷路にとり残された。それから今日まで、彼は地下に生きながらえていたのだった。

「で、息子さんは? 私の影武者を勤めてくれた息子さんは?」

「分らないよ、大方鮫にでも食われてしまったのだろうよ」

徳さんはあきらめ果てた調子であった。無理もない。徳さん自身、再び地上に出る見込みもない、まるで死人同然の身の上なんだから。

「僕の為に、君達をあんな目に合わせてしまって、さぞ僕を恨んでいただろうね」

私は兎も角も詫言を云った。だが、この死の洞窟の中では、そんな詫言が、何だか空々しく聞えた。徳さんはそれについては、何とも答えなかった。