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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
そして、いつもする様に、先ず第一に初代の席を眺めた。毎朝どちらが先に出勤するかという様なことさえ、私達の楽しい話題の一つになるのであったから。
だが、もう出勤時間が少し過ぎていたのに、そこには初代の姿はなく、タイプライターの覆いもとれてはいなかった。変だなと思って、自分の席の方へ行こうとすると、突然横合から、昂奮した声で呼びかけられた。
「蓑浦君、大変だよ。びっくりしちゃいけないよ。木崎さんが殺されたんだって」
それは人事を扱っている、庶務主任のK氏だった。
「今し方、警察の方から知らせがあったんだ。僕はこれから見舞に行こうと思うんだが、君も一緒に行くかい」
K氏は幾分は好意的に、幾分はひやかし気味に云った。私達の関係は殆ど社内に知れ渡っていたのだから。
「エエ、御一緒に参りましょう」
私は何も考えることが出来なくて、機械的に答えた。私は一寸同僚に断って(S・K商会は非常に自由な制度だった)K氏と同道して、自動車に乗った。
「どこで、誰に殺されたのですか」
車が走り出してから、私は乾いた唇で、かすれた声で、やっとそれを訊ねることが出来た。
「家でだよ。君は行ったことがあるんだろう。