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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

小説が好きで読む方は随分読んでいるけれど、実業学校の初年級で作文を教わった以来、事務的な手紙の文章などの外には、文章というものを書いたことがないのだ。なに、今の小説を見るのに、ただ思ったことをダラダラと書いて行けばいいらしいのだから、私にだってあの位の真似は出来よう。それに私のは作り話でなく、身を以て経験した事柄なのだから、一層書き易いと云うものだ、などと、たかを括って、さて書き出して見た所が、仲々そんな楽なものでないことが分って来た。第一予想とは正反対に、物語が実際の出来事である為に、却って非常に骨が折れる。文章に不馴れな私は、文章を駆使するのでなくて文章に駆使されて、つい余計なことを書いてしまったり、必要なことが書けなかったりして、折角の事実が、世のつまらない小説よりも、一層作り話みたいになってしまう。本当のことを本当らしく書くことさえ、どんなに難しいかということを、今更らの様に感じたのである。

物語の発端丈けでも、私は二十回も、書いては破り書いては破りした。そして、結局、私と木崎初代との恋物語から始めるのが一番穏当だと思う様になった。実を云うと、自分の恋の打開け話を、書物にして衆人の目にさらすというのは、小説家でない私には、妙に恥しく、苦痛でさえあるのだが、どう考えて見ても、それを書かないでは、物語