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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
それの締りをする細引きはちゃんと折釘に結びつけたままになっていた。その外、縁側の外の内庭のしめった地面にも、足跡などは見当らず、一人の刑事が天井板の取りはずしの出来る部分から、上に昇って検べて見たが、厚く積ったほこりの上には、何の痕跡も発見することは出来なかった。とすると、賊は壁を破るか、表の窓の格子をとりはずして、出入りする外には、全く方法がないのである。云うまでもなく、壁は完全だし、格子は厳重に釘づけになっていた。
更に、この盗賊は、彼の出入の跡を留めなかったばかりでなく、屋内にも、何等の証拠物を残していないのであった。兇器の白鞘の短刀は、子供のおもちゃにも等しいもので、どこの金物屋にも売っている様な品であったし、その鞘にも、初代の机の上にも、その他検べ得た限りの場所に、一つの指紋さえ残っていなかった。無論遺留品はなかった。妙な云い方をすれば、これは入らなかった泥棒が、人を殺し、物を盗んだのである。殺人と窃盗ばかりがあって、殺人者、窃盗者は影も形もないのである。
ポウの「モルグ街の殺人事件」やルルウの「黄色の部屋」などで、私はこれと似た様な事件を読んだことがある。