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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
それは時には人を喜びの頂点に持上げ、時には悲しみのどん底につきおとし、又時には、人に比類なき強力を授けさえするのだ。
やがて、昂奮から醒めた私は、やっぱり同じ場所に横わったまま、やや冷静に、それから私の為すべき事を考えた。そして、様々に考え巡らす内に、ふと一人物のことを思出した。その名は読者も已に知っている、私が素人探偵と名づけた所の、深山木幸吉のことである。警察は警察でやるがいい、私は私自身で犯人を探し出さないでは、承知が出来ぬのだ。「探偵」という言葉はいやだけれど、私は甘んじて「探偵」をやろうと決心した。それについては、私の奇妙な友人の深山木幸吉程、適当な相談相手はないのである。私は立上ると、その足で附近の省線電車の駅へと急いだ。鎌倉の海岸近くに住む深山木の家を訪ねる為であった。
読者諸君、私は若かった。私は恋を奪われた恨みに我を忘れた。前途にどれ程の困難があり、危険があり、この世の外の活地獄が横わっているかを、まるで想像もしていなかった。その内のたった一つをすら、予知することが出来たなら、私のこの向見ずな決心が、やがて私の尊敬すべき友人、深山木幸吉の生命をさえ奪うものであることを、予知し得たならば、私は或は、あの様な恐ろしい復讐の誓いをしなかったかも知れないのだ。