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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

あとで分ったことであるが、丁度その日、初代の母親は骨上げから帰ると間もなく、検事局の呼出しを受けて、巡査につれて行かれたというので、彼女の亡夫の弟という人が、自分の家から女中を呼び寄せて、陰気な留守番をしていたのであった。

私達が格子戸を開けて入ろうとすると、出会頭に、中から意外な人物が出て来た。私とその男とは、非常な気拙い思いで、ぶつかった目をそらす事も出来ず、暫く無言で睨み合っていた。それは、求婚者であったに拘らず、初代の在世中には、一度も木崎家を訪れなかった諸戸道雄が、何故かその日になって、悔みの挨拶に来ているのだった。彼はよく身に合ったモーニングコートを着て、暫く見ぬ間に、少しやつれた顔をして、どうにも目のやり場がないという様子で、立ちつくしていたが、やっとの思いらしく私に言葉をかけた。

「ア、蓑浦君、しばらく。お悔みですか」

私は何と返事をしていいのか分からなかったので、乾いた唇で一寸笑って見せた。

「僕、君に少しお話したいことがあるんだが、外で待ってますから、御用が済んだら、一寸その辺までつき合ってくれませんか」

実際用事があったのか、その場のてれ隠しに過ぎなかったのか、諸戸はチラと深山木の方を見ながら、そんなことを云った。