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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

「ここに大きな七宝の花瓶が、確かに二つ列べてありましたね。あれは売れたんですか」

私は通りすがりの客の様に装って、そんな風に尋ねて見た。

「ヘエ、ございましたよ。ですが、売れちまいましてね」

「惜しいことをした。欲しかったんだが、いつ売れたんです。二つとも同じ人が買ってったんですか」

「対になっていたんですがね。買手は別々でした。こんなやくざな店には勿体ない様な、いい出物でしたよ。相当お値段も張っていましたがね」

「いつ売れたの?」

「一つは、惜しいことでございました。昨夜でした。遠方のお方が買って行かれましたよ。もう一つは、あれはたしか先月の、そうそう二十五日でした。丁度お隣に騒動のあった日で、覚えて居りますよ」

という様な具合で、話好きらしい老人は、それから長々と所謂お隣の騒動について語るのであったが、結局、そうして私の確め得た所によると、第一の買手は商人風の男で、その前夜約束をして金を払って帰り、翌日の昼頃使いの者が来て風呂敷に包んであった花瓶を担いで行った。第二の買手は洋服の若い紳士で、その場で人力車を呼んで、持帰ったということであった。両方とも通りかかりの客で、何所の何という人だか勿論分らない。