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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
しかも何人も下手人の影をさえ見なかったのである。深山木の胸深く、かの短刀を突きたてたのは、人間の目には見ることの出来ぬ妖怪の仕業であったのだろうか。私はふと、何者かが短刀を遠方から投げつけたのではないかと考えて見た。だが、その時の凡ての事情は、全くそんな想像を許さなかった。
注意すべきことは、深山木の胸の傷口が、そのえぐり方の癖とも云うべきものが、曾つての初代の胸のそれと酷似していたことが、のちに取調べの結果分って来た。のみならず、兇器の白鞘の短刀が、両方とも同じ種類の安物であったことも明かにされた。つまり、深山木殺しの下手人は、恐らく初代殺しの下手人と、同一人物であろうという推定がついた訳である。
それにしても、この下手人は、一体全体、どの様な魔法を心得ていたのであろうか。一度は全く出入口のない、密閉された家の中へ、風のように忍び込み、一度は衆人環視の雑踏の場所で、数百人の目をかすめて、通り魔の様に逃れ去った。迷信がかったことの嫌いな私であったが、この二つの理外の理を見ては、何かしら怪談めいた恐怖をさえ感じないではいられなかった。
鼻欠けの乃木大将