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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
それは石膏の上に、絵具を塗って、青銅のように見せかけた、どこの肖像屋にもころがってい相な、乃木大将の半身像だった。随分古いものらしく、所々絵具がはげて白い生地が現われ、鼻などは、この軍神に対して失礼なほど、滑稽にかけ落ちていた。鼻かけの乃木大将なのだ。ロダンに、似たような名前の作品があったことを思出して、私は変な気持がした。
無論、私はこの「品物」が何を意味するのか、何故人殺しの原因となる程大切なのか、まるで想像もつかなんだ。深山木は、「毀さぬように大切に保管せよ」と云った。又「それが大切な品だと云うことを、他人に悟られるな」とも云った。私はいくら考えても、この半身像の意味を発見することが出来ぬので、兎も角死者の指図に従って、人に悟られぬ様に態とがらくた物の入れてある押入の行李の中へ、それをソッとしまって置いた。この品のことは、警察では何も知らぬのだから、急いで届けるにも及ばなかったのだ。
それから一週間ばかりの間、心はイライラしながらも、私は深山木の葬儀の為に一日つぶした外は何の為す所もなく、いやな会社勤めを続けた。会社がひけると欠かさず初代の墓地に詣でた。