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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

かねて誂の剃刀を、あわせて届けに来たと見える。かんぬしが脂下ったという体裁、笏の形の能代塗の箱を一個、掌に据えて、ト上目づかいに差出した。それは読めたが、今声を懸けたばかりの、勝手口の腰障子は閉まったり、下流の板敷に、どッしり臀を据えて膝の上に頤を載せた、括猿の見得はこれ什。

「まあ。」

奴は、目をきょろきょろして、

「へへへへへ。」

「御世話様でした。」といってただ受取ったのが、女房の解せない様子は、奴もとより承知之助。

台所に踞んだまま、女房の、藍微塵の太織紬、ちと古びたが黒繻子の襟のかかったこざっぱりした半纏の下から、秋日和で紙の明るい上框の障子、今閉めたのを、及腰で差のぞき、

「可塩梅に帰りましたね。」

「誰さ。」

「今来やがった野郎でさ。」

これで分った。女房は頷いて、

「ああ、今の。何だろう? お前さん知ってますか。」

「知ってますッて、とんだ奴です。」ともう一度首を伸ばして見る。

女房も振返ったが、受け取った剃刀をそのまま、前垂を挟んで、粋に踞み、

「何、町内の若い衆かい。」

「じゃ、おかみさん、こっちじゃ御存じないんですか。」

「見た事もない人さ、でもお嬢さんはどうだか。